~ やってみんきゃしょーねぇら! ~
「このハードルを越えられるだろうか?」
東京から帰ってきてから、我々は6月3日に再び集まって話し合いの場を持った。
「憧れのジェリーさんとスクーターズが共演ができるんだ!」
「もう目の前で見ることができないと思っていたあのジェリーさんのコンサートを、この長野で、俺たちの手で開くことができる!」
「ホントすごいことだよな!」
千載一遇のチャンスとはまさにこのことだと思う。田舎の一バンドに訪れた絶好の機会。これを逃す手はあるまい。ハードルの先には想像を超えるような素敵な景色が待っている。
とは思うものの、いろんな不安が次々と我々の脳裏をかすめていく。
田舎のシロート同然の自分たちで本当にできるのか。どこでやるのか、人を集めることができるか、採算割れしないか、準備のための時間が少ないんじゃないか・・・。考えても考えても不安は払拭できない。みんなでどれだけ考えても結論が出せないし、スパっと明快に答えを出してくれる人もいない。
集客のこととお金のことは特に心配だった。
ジェリーさんを招いておいて、お客さんが少なかったらどうしよう、がっかりさせちゃうかな、という不安。
そしてお金のこと。経費は結構かかりそう。持ち出しをいかに少なくできるか。我々のバンドには貯金がほとんどない。たまにイベントに出演するなどして頂戴するお金も、病的な(?)機材等購入ですぐ使ってしまい、バンドの財布はほぼスカンピン。裕福とは縁遠い一般庶民である自分たちが出し合えるお金も高が知れている。元手がないに等しいので、結局はお客様から頂く入場料で賄うしかないが、果たしてうまくいくかどうか。
「ああ、考えることが多すぎてまとまらんし判断がつかん・・・」
不安材料ばかりで議論は行き詰ったかに見えた。
しかし、プラスの判断材料もなくはなかった。
スクーターズには多少の「経験」があった。ここでいう「経験」とは、ホールを借りての単独ライブをこれまでに5回催行している実績。さすがにホールを満員にするほど集客ができていたわけではないが、それでも100人前後、多い時は150人近くの人が観に来てくださった。自分たちでポスターを作り、チケットも売って、音響や照明、会場スタッフも知り合いにお願いしたりして、何とか大きな赤字を出さずに自分たちの手で作り上げることができていた。そんな経験があったので、当時から手伝ってくれていたリーダーの奥様も「大丈夫だら!できるら!」と、尻込みしている我々の背中を力強く押してくれていた。
機材も、手前味噌にはなってしまうがそれなりのものは揃っている。ジェリーさんが使っていたのと同じRolandのギターアンプJC-120とEX-Proのワイヤレスはあるし、ドンさんが使っていたのと同じCanopusのSurf Reverb、ボブさんが使っていたのと同じPeaveyのMega Bass+215-DBWもある。もちろん本人使用のものではないが、すべてオークションなどで中古購入して揃えたもので、音もコンディションも悪くない。
最後は、ジェリーさんを愛してやまないリーダーの「やってみんきゃしょーねぇら!」の一言で、スクーターズとしてジェリーさんのライブをプロモートする意思が固まった。案ずるより産むが易し、案じるより団子汁、である。かくして、スクーターズのビッグプロジェクトが始動したのである。
(つづく)